かつてとは比べものにならないほど過酷な就活。
親にできることは何でしょう。
過保護
ここまで書いてきたように、就活生を取り巻く環境、就活にかける労力、期間の長さなど、今の就活はかつてと比べものにならないほど過酷です。しかし、いくらお子さんのことが心配でも、親が就活の表舞台に出てはいけません。就活は社会人の入口です。子どもの代わりに親が企業に連絡したり、スケジュールが重なって参加できない子どもの代わりに企業説明会に参加したりしたら、採用担当者がどう感じるかは明らかです。「自立できていない」「過保護な家庭」という印象がプラスに働くことはまずありません。親が会社に接触することは、緊急時を除き基本的にNGです。
過干渉
「今日はどの会社? 面接の準備は?」「○○ちゃん、もう決まったみたいよ。あなたはまだなの?」「公務員を目指しなさい」「焦らず大学院に進んだら?」「TOEICとか大事みたい。今から英語の勉強したら?」「(テレビのCMなどを見て)この会社よさそうじゃない」「大きな会社がいいぞ」「そんな聞いたことない会社、やめなさい」「営業? 大変よ。向いてないんじゃない?」「そんなことだから落とされるんだ」……。
つい口に出してしまいそうな言葉ですよね。お気持ちはわからなくはありませんが、ぐっと飲み込みましょう。細かなチェックや露骨な関心、時代錯誤のアドバイスや無神経な発言に子どもは悩み、傷つきます。なにより、「価値観の押しつけ」はお子さんの可能性をつぶします。
本人が納得していないのに、親の考え通りに就職したらどうなるでしょう? 仕事がしんどいとき踏ん張れるでしょうか。今のお子さん世代は、私たちのころと比べて親の意向を尊重するといわれますよね。結果的に、親のひと言が若年離職につながりかねないのです。「就職先は必ず本人が納得して決める」「親は途中で意見は言っても、最終的には子どもの決断を尊重する」。ここが最大のポイントです。
無関心
精神的な負担が大きく、一部の優秀な学生を除けば一人で乗り切るには荷が重いのが今の就活です。興味も示さずに「好きにしたら」と突き放すのはやめてください。まずは大いに関心を持ち、今どきの就活を知ってください。サポートに徹し、陰で様子を見ながら、悩んだり困ったりしているようなら状況を聞いてみましょう。もちろん相談されたら積極的に助言してあげてください。
話を聞くというより話し相手になって、お子さんの考えを整理する手伝いをしてみてはどうでしょう。自分からあまり話をしない子には「いつでも相談にのるからね」「親に話しづらかったら、知人を紹介するから話を聞いてもらったら」などと提案するのもいいでしょう。
視野を広げる手伝い
親がやってしまいがちな「3大NG」がある一方で、親にもできること、親にしかできないことがあります。まずは、お子さんが就活に取り組み始めるころ、親子で就活について話してみることをお勧めします。就活は親子対話のよい機会です。親にどの程度関わってほしいか早めに確認しておくと、その後の関係がスムーズになると思います。ここからのお話は、お子さんの意向に応じて関わり方を工夫してみてください。
就活で最初に取り組まなければならないのが「業界・企業研究」です。多くの学生は「消費者目線」で企業を探しがち。消費者に商品やサービスを直接提供する有名な「BtoC企業」ばかりに目がいきます。だからそこにエントリーが殺到するのですが、世の中には消費者に直接関わらず、企業同士でビジネスをしている「BtoB(企業間取引)企業」がたくさん。一般には有名でなくても優良な企業があまたあります。就活には、こちらにも目を向ける「ビジネス目線」が必要です。仕事の経験、知識、新聞なども駆使して、広い視野を持てるよう導いてあげてください。
経団連加盟企業は約1400社、東京証券取引所などの株式市場に上場している企業だけでも4000社近くあります。新聞の株価欄を開いてみてください。上場企業は日本を代表する企業ですが、私たち大人でも知らない優良なBtoB企業がずらりと名を連ねています。 中堅・中小企業の魅力も伝えてください。国内の企業の総数はざっと360万社。そのうち中小が実に99.7%を占めています。まさに日本の経済を支えているのは中小企業なのです。
2021年卒の大卒求人倍率は1.53倍に下がりましたが、学生1人あたり1.5社から求人があるわけです(リクルートワークス調べ)。ところが、企業の規模別に倍率を見ると、違う景色が見えてきます。従業員1000人以上の大企業は0.93倍ですが、1000人未満の中堅・中小企業は1.94倍で1人に2社近い求人があります。業種によっても差が大きく、金融業が0.28倍、サービス・情報業も0.34倍と厳しい一方、製造業は1.60倍ありますし、流通業、建設業は6〜7倍と人手不足が続いています。IT、通信、通販、ゲーム、食品など、コロナ禍やデジタル化が追い風になった業界・企業もあります。 BtoCの大手だけでなくBtoBや中堅・中小企業に、さらに幅広い業界に目を向ければ可能性は一気に広がります。ぜひ、ビジネス目線による企業選びのサポートしてあげてください。お子さんが関心をもつ業界やお薦めの業界の記事があったら見せてあげましょう。
親の仕事についても、話してみてください。ふだんは仕事の話などしない家庭が多いと思いますが、就活はよい機会です。どんな仕事をしているのか、できるだけ具体的に話してあげてください。ひと言で「営業」といっても、学生は具体的な中身はほとんど知りません。会社とは何か、親の職業感、やりがいなどを話しましょう。
自己分析のサポート
就活で必ずやらなければならないことの一つに「自己分析」があります。自分はこういう性格だからこんな仕事が向いている、こんなことを成し遂げたい、と考えることです。内省的な作業ですから、内にこもって行き詰まる学生もいます。長所をアピールするのが就活ですが、自分の長所を見つけられない学生も多くいます。悩んでいるようなら親の出番です。子どもの良いところを一番知っているのは、なんといっても親。本人が自覚していない長所・短所を指摘してあげましょう。
ただ、最初から「あなたはこうだよね」と決めつけて言うのではなく、対話をするのが効果的です。たとえば、「アルバイトでどういう役割をしていたの」「困ったことはあった?」「その時あなたはどう思ってどう行動した?」というようにエピソードを聞き出しましょう。小さなころのエピソードも重ねて、「あなたのいいところはそこだよ」などと伝えましょう。
面接では、小中学生のころのことまで遡って人柄を確かめる企業もあります。古いアルバムや資料を引っ張り出して、あのときあなたはこうだったと話してあげるのも手助けになります。
ES、面接、身だしなみのアドバイス
就活について率直に話し合える信頼関係が成り立ったら、いろいろ助言してあげてください。否定するのではなく、提案する形にしましょう。繰り返しますが「親の価値観の押しつけ」はNGです。
会社の採用試験で面接官を務めたことがある方もいるでしょう。本人が望めば、面接官役やESのチェックを買って出てください。身だしなみも大事です。髪型やスーツのしわなども見てあげてください。
こんな親子も――。大手航空会社の客室乗務員(CA)に内定した学生は、自分の過去のエピソードを、思いつく限り付せんに書き出しノートに貼りました。その後、面接官役の母親がメモを見ながらいろんな質問をし、学生が答える練習をしたそうです。「本番で聞かれたことも過去についての質問だったので、エピソードをたくさん用意していた私には難しく感じませんでした。この練習が、一番の“緊張ほぐしアイテム”になりました。つきあってくれた母には大変感謝しています」。
知人の大人の紹介
核家族化が進み、今の若者は年の離れた大人と話す機会があまりありません。行動範囲が限られている学生がふだん接する大人は、大学の先生、アルバイト先の社員くらいで、社会人と1対1で話すことに慣れていないものです。社会人との会話がいきなり面接本番では、緊張しないわけがありません。
そこで、友人や会社の先輩・後輩など知人を紹介してみてはいかがでしょう。お子さんが志望する業界の知人を紹介できれば、OB・OG訪問の代わりになります。面接の練習にもなります。知人のOKが出たら連絡は本人にさせましょう。大人に連絡・話をする際のマナーについても見てもらいましょう。
就活資金の援助
就活にどのくらいお金がかかると思いますか。身だしなみから、スマホ代、交通費まで、意外に出費が多いものです。東京で1日数社の会社説明会をハシゴするだけでも交通費が結構かかります。住んでいる地域によっては、東京や大阪など都会に行ったり宿泊したりするために多額の費用が必要です。
首都圏に住んでいて東京の企業に就職を希望する学生でも計十数万円といわれ、地方の学生が東京で就職を希望する場合は20万円を超すこともあります。なかなか内定が得られず長期化すれば、金額はふくらみます。ES用だけで数十枚必要な証明写真も、専門の写真館で撮れば安くはありません。
かかるお金は大きく分けて、(1)リクルートスーツや靴、カバン (2)証明写真 (3)交通費(遠方の場合は宿泊費も) (4)パソコンやスマートフォンの本体費用や通信費 (5)就活対策本などの書籍代 (6)食事代やコーヒー代 (7)美容室代やクリーニング代、化粧品代――などが挙げられます。もう成人なのだからすべて自分で賄うべしという方針のご家庭もあると思いますが、就活は遊びではありません。いざというときにはご支援を。
コロナ禍でオンラインによるWEB面接が当たり前になりました。面接中に通信が途切れてしまい、うまくいかなかったケースもあると聞きます。ご自宅やお子さんの住まいの通信環境の整備も、親の責務です。
先輩内定者から「親御さんへのメッセージ」
◆「求められたら助ける」スタンスで
「気持ちよく就活できる環境づくり」をしてあげてください。心配な気持ちはよくわかりますが、その心配が知らず知らずのうちにお子さんにとってプレッシャーになってしまうことがあります。私の両親は心配してくれているとは感じましたが、直接言葉をかけられることはあまりなく、「求められたら助ける」スタンスで接してくれました。そのほうが気楽で、就活中に変にプレッシャーを感じることがなく、良い結果につながったと思います。
◆四つのお願い
(1)あからさまな興味関心を子どもに見せないでください。
(2)兄弟と比較しないでください。
(3)子どもの人格を否定しないでください。
(4)遠くから見守っていてください。
◆「一番の味方」だと伝えて
子どもの一番の味方であることを伝えてください。応援してくれている人がいると思うと、それだけで自信につながります。